☆監督の思い☆

「超攻撃野球」をスローガンに東北の地から目指す全国制覇

 

〇学童全国8強の選手たちがヤング全国3位の快挙達成

 

 福島県郡山市で活動している南東北ヤングベースボールクラブは、2021年の「第29回ヤングリーグ選手権大会」で3位に輝いた。ヤングリーグは関西から九州にかけての西日本にチーム数が多く、3つの支部で機成される東日本ブロックに属するチームとしては初の快挙だった。

 藤宮健二監督は「自発的に取り組み、自立して行動し、自分で考えることができる選手が多いチームを目指しています。そのなかで全国制覇をねらっていく。全国大会では(西日本の選手と)パワーとスピードで差を感じますが、「優勝旗を持ち帰りたい」と、みんなで言っています。チーム数が少い東北地方でも、やり方によっては優勝できるということを証明したいですね」と意欲を燃やす。

 この春、高校2年になった全国大会3位の世代が南東北ヤングを復活」 させた。話は5年前にさかのほる。当時、藤宮監督が指揮していたのは小学生の軟式野球チームである富田エンゼルス(郡山市)。慣例で最上級生の保護者が監督をするチームで、藤宮監督は次男・功賀さんの代で引き受けた。力のあったチームは18年の「高円宮杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」の福島県大会で初優勝し、全国の舞台で8強入りした。

 メンバーの一人である芳賀陸人さんは楽天ジュニアに選ばれ、「NPB 12球団ジュニアトーナメント」で優勝(日本一)。首位打者で、胴上げ投手にもなった。高いレベルを経験した富田エンゼルスの選手たちは中学でも一緒にプレーすることを望んだ。それも、藤宮監督のもとでやりたいという。「どうしようかなと考えていたときに南東北ャングの前監督さんから、「ここでやっていいよ」という話をいただきました」。18年当時の南東北ヤングは中学12年生の選手がおらず、チームの灯が消えかかっていた。

 富田エンゼルスのメンバー5人と、他チームの3人の計8人からスタートした。仲間が12人と増え、集大成となる中学3年の夏の全国大会で躍進。藤宮監督の1期生はチームの礎を築いて12人で卒団した。

 

〇勉強で考える習慣を付けて野球でも考えるようにする

 

南東北ヤングが大切にしているのは、選手の自主性だ。

「ヒントは与えますが、答えは自分で考えて見つけてもらいたい。そして、自分で考えてアクションを起こしたり、決断して実行できたりする選手になってほしいと思っています。甲子園を目指している選手が多いので、そういう舞台に立てるような基礎づくりをしたい、というところからですね。また、高校野球はあくまでも通過点だと思っているので大学や社会人、プロといったところで活躍できる土台となる体づくりや考え方を指導していきたいと思っています」(藤宮監督)

 高校野球でも指導者の一方的な指導ではなく、選手自らが考えることを重視するチームがフォーカスされるようになってきた。中学生のうちから自主性を育むことで高校に上がったときに戸惑わず、適応していくことができる。

 

「考える脳をつくりたい」と、勉強も疎かにしない。スタッフには学習講師として高森亮輔さんがおり、雨の日や定期試験前などにはクラブハウスで机に向かう。

 

「そもそも、勉強は中学生としての本分でもありますし、考える習慣を付けてもらいたいんですよね。勉強をやることで野球でも必然的に考えるようになる。そして、野球も勉強も100%で取り組むことで、時間も有効に使うことにつながってくる。勉強はものすごく、重要視しています」(藤宮監督)

 松本叶大主将(3年)は「日ごろから監督には「中学硬式野球はプロだよ」と言われています。野球だけでは「プロ」にはなれないので、勉強もできて野球もうまいんだということを学校の人たちなどに知ってもらえるようにしたいと思っています」と語る。クラブチームは競技を専門的にやる場所だが、野球だけでなく勉強にもしっかりと向き合う。それがプロ中学生・としての意識付けとなり、自立へとつながっていく。

 

 子ども扱いもしない。藤宮監督は「小学生や中学生も一人の人間。一緒に活動していく、という感覚です」と個人を尊重し、説明する言葉は丁寧だ。「大きな声を出さなくても的確に、聞き取りやすく伝えることができます」と練習中はマイクを握る。広いグラウンドで実戦練習でも、外野手までクリアにその声が届く。

 

〇送らないで得点するために長打力を重視

 

 チームスローガンは「超攻撃野球」。その原点は、藤宮監督が少年だったころのある試合にある。「小学生のころ、攻撃でバントのサインが出たときに守備ですごいシフトを敷いてくるチームがあったんです。ものすごくプレッシャーがかかり、攻撃側である私のチームがミスをした。そのとき、「これ、守備なのに攻撃しているんだな』と気付いたんです。それからは打撃、走塁、守備と、すべてにおいて攻撃的な行動をした方がいい結果が生まれるんだなと思うようになりました」何事においても受けに回らず、積極果敢な姿勢が好循環を生む。攻めた守備に遭遇し、そう感じて以降、ポリシーとしてきた。そしで、南東北ヤングで指揮することになり、スローガンに掲げた。

 打撃と走塁の組み合わせである実際の攻撃の戦術は、やはり「攻撃的」だ。

「人それぞれに考え方があると思いますが、私は送りバントがプラスの攻撃ではないと思っています。例えば、無死一塁の場面で送りバントをして一死二塁となったとします。アウトを一つあげて二塁に送るより、ヒッティングでゲッツーになったほうが攻めている感覚が出ます。バントで二塁に進めでも得点にならないことが多く、試合の1回から7回をトータルで考えると打ったほうが勝率がいいんです」

 走者一塁で犠打が成功するということは、守備側にアウトを一つ与えることになる。アウトが増えたことは、相手に心理的な落ち着きをもたらしかねない。

「なかでも、無死一、二塁でのバントは失敗する確率が高い。バッターは守備側のチャージによって消極的になってしまうからです。無死一、二塁では、アウトを一つもあげずに人で点を取る野球を目指しています」

 そのため、打力強化に力を入れている。それも長打力を生み出せる打力だ。得点するためにはアウトでチェンジとなる前に一塁から本塁まで走者を進めなければならないため、長打は攻撃においてポイントとなる。

「単打が続いて満塁になっても得点できないことがありますから、長打力を付けさせたい。甲子園の試合を見ても、長打が出るチームが勝っていますよね。四球で出たランナーを二塁打や三塁打によって還すのが理想です。そして、厳密に言うと、逆方向に長打を打てる選手を育てたいと思っています」

 バットを振る力を身に付けるため、打撃練習では960グラム1000グラム1050グラム1100グラムと重さが異なるバットと、2.1kgの鉄バットを使用する。スタンドティーではスイング軌道を意識し、自分のかたちをつくっていく。打撃のみならず、走者の走塁技術や判断力にも磨きをかける。松本主将は「すべてにおいて、「超攻撃野球」のスタイルで全国優勝を目指したいです」と意気込む。